ブラックペアン1988 & エピデミック

ブラックペアン1988

ブラックペアン1988

海堂尊氏は医療を絡めた話のほうが絶対面白いと思うんだよなあ。
例の「バチスタ」シリーズの外伝となる作品で、主要人物の20年前の姿が描かれている。
僕は外伝ものはあんまり好きではないのだけど(面白くないことが大抵なので)、本作は良かった。

海堂氏におかれましては、次あたりEvidence-based medicineをテーマに書いて欲しいなあ。作品群の主要テーマであるオートプシー・イメージングは機材や技術の普及が必須だけど、EBMは導入の障害が少なくて見返りも大きいと思うんだ。
問題は非常に地味ぃな物語になりそうなことかな。疫学とか統計とかって物語になりにくいよねぇ。

新宿区立図書館で借りました。2時間くらいで読み切りました。人を待ちながら読んでたので、その場で読み切って返しちゃった。

エピデミック

エピデミック

で、疫学をテーマに一本書いちゃったのがこちらの本。
10年くらい前に読んだ「夏のロケット(isbn:4167662019)」が面白かったのと、エピデミックがテーマ、しかも武器として使うのが疫学らしいということで、手を伸ばしました。

千葉県の港町で、唐突な疫病の発生。原因不明、致死率も高く、街はゴーストタウンに。不自然な野生動物の死や謎の団体の存在もあり、原因は登場人物にも読者にも見当が付かない。最後の最後に原因を発見する手段となったのは、疫学、すなわち統計の力だった……

序盤はまるで「謎を解いてみろ」と言わんばかりに怪しげな要素が山盛りで出てくるものの、その一つ一つが消去法で消えていくというストーリーになっている。なんというか、地味な展開。クライマックスでは統計で解決しちゃうので、読者の推理が全く役に立たない上に地味な結末となっている。
だけど、これでいいんだよね。推理とか勘なんてのは可能性を絞る段階でしか使えず、有意な相関関係を発見するには結局統計的手法しかないんだよ、というメッセージを伝えたいんだよね。作者は科学的な素養のある人なので、「ヒロイックで面白いけど裏付けのないストーリー」よりは「地味だけど真実を伝える」方を選んだのではないかと感じた。それが、疫学という地味だけど(EBMなどの観点からは)非常に重要な学問をテーマに選んだ作家が果たすべき義務なんだ、と考えたのかもしれない。

新宿区立図書館で借りました。2時間くらいで読み切りました。